『死の十字路』


 昨日、横浜近代文学館に行ってきました。「大乱歩展」の記念行事として、『死の十字路』が上映されたためでした。この映画は、1956年公開という古いものですが、その完成度が高く、私が子供の頃にも「キネマ旬報」で取り上げられていた記憶があります。ようやく念願叶い、この名作を観る機会に恵まれたわけですが、その古さから一抹の不安もありました。
 ところが、上映が終わった瞬間、そんな不安など銀河の彼方に吹き飛んでしまいました。やはり乱歩は乱歩なのです(笑)。
 この作品は、クライム・サスペンスとしてほぼ完璧な完成度を示しています。すべてのシーンが無駄なく配され、その前後関係も問題ありません。
 あらすじは省略させていただきますが、ご興味があればこちらへ。
http://home.f05.itscom.net/kota2/jmov/1999_04/990424.html
タイトルそのままの「運命の交差点」(銀座四丁目?)で錯綜する人間模様は、乱歩ならではの必然と偶然の交錯する見事なプロットとなっています。
 倒叙法という『刑事コロンボ』と同じ形式を取ることで、捜査サイドよりも犯罪者サイドの人間ドラマに重きを置いた作りは、犯人に対する観客の共感を呼び覚まし、メロドラマとしても見ごたえがあります。『刑事コロンボ 殺人処方箋』に似た作りですが、もちろん乱歩の方が先です。
 さらに、古きよき東京の風景は、私のようなオールドファン(と言っても40代ですが)のノスタルジーをくすぐってくれます。
 惜しむらくは、映画なので展開を急いだためか、二番目の人間模様が終盤で詰めが甘くなること、刑事が決定的な手がかりを掴むプロセスが事後説明で終わってしまったこと、大阪志郎演じる私立探偵の心中の動きがうまく描ききれていないことなどがありますが、こうした瑕疵は「強いて言えば」程度のことで、作品の価値を減じているほどではありません。
 この作品を発掘し、上映いただいた主催者側に感謝すると同時に、どこかで再びこの作品の上映機会を持っていただきたいと切に願っております。そして一人でも多くの乱歩ファンに、この作品を観ていただきたいと切に願っております。さらに、これだけの品質の作品ですので、リメイクすれば、また面白いのではないかと思います。